発注すること、役割の外部化
Literatusでは,プロジェクトマネジメントにおける発注することを「役割の外部化」と呼んでいます。基本的にプロジェクトにおいて必要な役割は本来,発注者自身が行うものです。
それを事業の特性,予算,求める品質などに合わせて外部化先を選定します。プロジェクトにはその推進上に様々なトラブルが発生しますが,その多くはこの機能の外部化が適切に行われていないためであることが敬虔的にわかってきました。まずは,その「役割の外部化」の仕組みについてご説明いたします。
1.『発注者』とは?
PMとか、マネジメントとか、複雑なことを考える前に、「発注者」になる、ということを考えてみましょう。 民法では以下の13の項目が契約行為として定義されています。
- 贈与
- 売買
- 交換
- 消費貸借
- 使用貸借
- 賃貸借
- 雇用(雇傭)
- 請負
- 委任
- 寄託
- 組合
- 終身定期金
- 和解
建築を手に入れる行為としては「請負契約」と「売買契約」があります(正確には、不動産取引としてそのほかの行為も関連します)。
クライアントには,この発注者になるということは,請負契約の義務とリスクをしっかりと理解する必要があることを説明することが多いです。売買契約というのは,その名称の通り,金旋対価を支払って何らかのものやサービスを購入する行為です。日常的な買い物は全てこれに該当します。
請負契約というのは,契約時点では完成物が存在しません。建築の請負契約とは,設計図面と請負契約約款、仕様書などをもとに工事を完了させて引き渡すという契約をすること,になります。身近な例であればクリーニング屋が分かりやすいでしょうか。発注者が持ち込んだ衣類をきれいにするということを契約し,金旋対価を受領,後に洗濯・乾燥・アイロンがけされた衣類を引き渡すわけです。
この時きれいになった状態,というのは依頼時点では説明もできませんし,大きなしみ等が最初からついていた場合,新品同様にきれいにできるかどうかは確約できません。建築も同じです。図面や見積もりを元に建物は完成しますが,その状態までは契約時点ではわかりません。
ただし,消費者を保護するという観点では,瑕疵という考え方があります。完成物を先に見たり,触ったりすることができませんので,契約段階で引き渡される目的物の仕様を確定させ,実際に引き渡されたものがその目的を達成することが出来ない場合,例えば住宅に住み始めてみたら,雨漏りがあった,シロアリの虫食いが多数発生していた,等です。もちろんそもそもあるべき場所に柱がない,窓がない,などはもってのほかです。
このようなケースは瑕疵担保補償という考え方で,消費者が守られるわけですが,将来の民法改正によって新しい考え方が取り入れられる予定です。民法改正による瑕疵担保の考え方については,別な記事でご紹介いたします。
2.建物づくりにおける「外部化」とは?
発注者の反対語は受注者…ではなく「生産者」です。あなたが「バナナを食べたい」と思ったとき、まず第一にできることは自分自身でバナナを一から生産することです。しかしながらそんな時間も余裕もないあなたは、持っている土地を使って誰かにバナナをつくってもらうことが出来ます。
自分で作るまでしたくないあなたは、商社を経営して南国からバナナを輸入することも出来ます。もっと簡単に、その過程全てを肩代わりしてくれるスーパーに行き、お金という対価を支払うことで、すぐにバナナを手に入れることができます。
つまり、ここではあなた自身がバナナを手に入れるための行動=「機能」を外部化したと言えます。
- バナナをつくる → 果樹農家
- バナナを持ってくる → 商社(スーパー等)
- バナナを入手する → 金銭を支払って買う
このような,様々な手法を駆使して目的のものを手に入れる行為を,別な誰かに依頼すること,これが発注です。 さて,では実際に建物づくり…,建築計画における機能の外部化について考えます。 「建物を建てる」ことを自力でやろうとすれば、ログハウスやDIYのような手段がありますよね。ところが実際には有資格者でなければ出来ない行為(建築確認申請や5,000万以上の工事請負等)もありますし、技術的・時間的にも素人でできる範囲は限られると思います。そこで、「建物を建てる」ために必要な諸々の行為を、様々に「外部化」することになります。
- 建物をつくる → 技能職人(大工、設備業者など)
- 建物を作る材料を手に入れる → 建築業者
- 建物をつくるための業者を手配する → 建設業者
- 建物の設計図をつくる → 設計士,インテリアデザイナー
- 建築発注の第三者管理 → プロジェクトマネジメント,コンストラクションマネジメント
- どんな建物をつくるか考える → プロジェクトマネジメント,不動産デベロッパー
- 資金計画を考える → ファイナンシャルシャルプランナー
- 土地を手に入れる → 宅地建物取引士
- 建物を貸し出す → 不動産屋(仲介業者)
- 建物を管理する → プロパティマネジメント,ビルマネジメント
上記は一例です。お金を用意したり、物事を決めたり(意思決定)、スケジュールやプロセスを管理するなど、発注者には負担するべき機能と責任が多くあります。家電製品のように実際に品物を店頭で確認し、購入したら店の保証、メーカーの保証がついてくる、そのような「既成品」とはことなるのが大きなポイントだと思います。
3.最終的に外部化できない機能とは?
結論から言ってしまえば、以下の3点です。
- 発意と
- 機能の外部化
- 意思決定
3-1.発意
家を建てるぞ,不動産で投資するぞ,などのように建築計画に着手することを建築の発意、と言います。「どのように建てるか」(=how)は他のプレイヤーに移譲できますが、「なぜ建てるか」(=why)という、いわば事業決定です。これは発注者自身にしかできません。
建築をつくろうとする動機は人さまざまでしょう。家族のために家を建てたい、投資目的で建築を保有したい、本社をつくりたい、その他に資産運用目的や、事業目的の建築もあります。そこには建築そのものが目的なのではなく、建物を通じたビジョンがあるはずです。
そのビジョンを実現化するための手段として建築行為を決定すると、土地を購入したり、設計士に法的なスタディをしてもらったり、金銭対価を支払って計画の実現可能性(フィージビリティスタディ)を検討する段階に入ります。
3-2.役割の外部化
本項の主題でもある役割の外部化です。建築の事業というのは、年々複雑化してきており、発注者が望む建物(機能)を実現するためには、適切なプロジェクトチームを作ることが非常に重要な要素となってきました。
図の左端のように究極的にはセルフビルド、すなわち自分で発意して、設計して、買ってきて、創る、するのが役割を一切外部化しないかたちです。しかしながら一人ですべて個なるには技術も時間も費用も掛かりますので、効率的かつ合理的に進めていくために”役割の外部化”をしていくことになります。
中央の図が最もシンプルな建築発注形態で、公共工事を始め古くから一般的に行われた”設計施工分離”という形式です。そのような役割の外部化が昔は多く,近江商人曰く三方好しではありませんが,発注者・設計者・施工者の3者で多く建物がつくられてきたのが昭和の建築の歴史であり、最もシンプルなプロジェクトチームの形態です。
少し話がそれますが、これとは別に”設計施工一括”という発注形式があります。つまり施工者(ゼネコンや工務店)の社内に設計部と施工部の両組織を有している場合、設計者・施工者の役割を一つの施工者に依頼することで、プロジェクトチームは発注者と設計施工者という2者で完結する、シンプルな形態です。
日本のゼネコンは諸外国に比べて手厚く対応してくれますので,マンションをつくりたいとその意図を伝え,予算を確保して伝えれば、後は発注者自身は何もしなくても目的物が完成,引き渡しを受けることが出来ます。もちろん、希望や条件を明確化して伝えられなければ、勝手に条件設定された建物になりますので、次に述べる”意思決定”が重要になってきます。
発注者の手間を省くという観点でいえばある一社にすべてを任せると言うのは非常に簡単なやり方ではありますが,当然のことながら様々な側面において透明性も低くなりますし,その一社に依存することになります。
他産業では当たり前ですが,効率性を求めて納入ルートを変えたり,自社の理念やコンセプトに見合ったデザイナーやプロデューサーの採用,新しい販売ルートの確保など,常に様々な役割を更新することがあります。
数千円のクリーニングの請負契約をするのであれば,ネット情報や店舗の見掛け,店員の対応などを見て判断するのでもいいでしょう。しかし建築というのは安くても数千万から数億円,高額であれば数十億円以上かけて行うものです。コンサルタントや設計士ひとつとっても数千万円の依頼料,工事に至ってはそれ以上のお金を掛けます。
役割の外部化とは,誰に何を任せるのか,です。そのためには,そもそも自分自身は何をできて,何をできないのかを考え,その建物づくりに必要な「役割」を整理することから始まります。一つ一つの役割には,法定業務というある一定資格を有していたり,資格者が登録した事業所でしかできない業務があります。
一方で,誰でもできる役割もあって,専門業者もいれば.横断的に業務をこなせるマルチプレイヤーもいます。先述の通り,抱き合わせで業務をやってもらえる業者はその分の安上がりであったり,発注者自身の調整負担が削減されるというメリットがある一方で,作業が不透明になるというリスクもあります。そこで,発注者自身のスキル,予算,かけられる時間などを加味して,適切な役割の外部化を行えるよう計画を立てることが肝要なのです。
3-3.意思決定
適切な役割が抜けもれなく選定、契約されたら事業の推進です。実際には発注者が行わなければならない行為は非常にたくさんありますが、事業遂行上最も重要なのがこの”意思決定”です。
代表的な行為としては”もの決め”があります。設計者から提示される図面や使用、施工者から提示される見積金額などの決定です。複雑なプロジェクトであれば運営委託者やプロパティマネジメント、ビルマネジメント等との調整や、関係者間のフリクションの調整、予測可能・不可能なトラブルに対する対応など、プロジェクトというのは大小様々な意思決定の連続と言うことができます。
4.建築チームの複雑化
最後に捕捉ですが、3.-2役割の外部化の図表の右端に輻輳化した建築関係者図が描かれています。
- 発注者組織の多様化(JV,ファンドスキーム等)
- 設計組織の多様化(インテリアや照明等の専業化、設計発注の複数化、国外技術者との連携等)
- 施工発注方式の多様化(デザインビルド、ECI、CM方式など)
- 運営委託の多様化(マネジメントコントラクト、PFI等)
以上のように、建築に関わる主体、主体間の契約が複雑化しているのが近年の建築スキームです。このような複雑化は再開発等の大規模建築に限らず、所有者と運営会社が分離している公共施設、ホテル、福祉施設などの計画でも顕在化してきています。そこにプロジェクトマネジャーがプロジェクトに関与する大きなメリットがあります。
※発注方式の多様化についてはコチラ(Under Construction)
最後になりますが、早期発見,早期対処 プロジェクトの発意段階,事業化段階でどのような役割が必要か,どのような依頼相手が望ましいかなどでお困りの場合は,Literatusまでご相談ください。