アフターコロナにおける”ニュー・ノーマル”
いわゆる大きな変革を迎えた後に、それ以前とは異なる新しい生活や経済の様式が「標準」となることです。
コロナ禍以前から進められてきたホテル開発は700件以上ありましたが、それらも今や続けるか、止めるか、辞めるか、の選択を迫られています。ホテル開発事業者様からのこの先の開発に関する相談の中で、アメリカのゲンスラー ・アンド・アソシエイツ・インターナショナル・リミテッド 社によるワークプレイス戦略の考え方がとても面白く、ホテル業に置き換えて表現してみるととても分かりやすかったのでご紹介します。
ここではアフターコロナにおける新しい働き方への順応プロセスを①RE-THINKフェーズ(出社開始に向けた準備期間)、②RE-ENTRYフェーズ(段階的な出社の対応・調査期間)、③RE-ACTIVATEフェーズ(長期的な戦略シナリオの策定・実行期間)という三つの段階で想定が行われています。
例えばこれをホテル業界で考えてみると
- RE-THINKフェーズ 2020年3月~夏頃(ロックダウン、緊急事態宣言下における働き方、生活様式の変化が生ずる時期)
- RE-ENTRYフェーズ 2020年~2022年頃(自粛と回復を繰り返し、緩やかなW字を描く回復期、国内のニュー・ノーマル旅行需要に対してソーシャルディスタンスを保ちながらの新しい旅行・宿泊スタイルを浸透させていく時期)
- RE-ACTIVATEフェーズ 2023年以降(渡航規制の解除に伴いインバウンドが増加する。また大阪万博やIRといった起爆剤によりかつての市況に戻っていく時期。)
のように仮定、整理することができます。
ところで、UNWTO(国連世界観光機関)5月7日付のレポート『2020 年の国際観光客数は 60-80%減少する可能性あり』には以下のような回復シナリオが想定されています(※予測ではなく、不確実性が高いと中期があります)。
ホテル業界の「Re」フェイズ
現実的には先に述べたように、もっと回復には長い期間を要することや、W字を何度も描くような流れになることも想定されますが、この流れに先のニュー・ノーマル順応プロセスを統合してみると、以下のような図になります。
RE-THINKフェーズ 2020年3月~夏頃
緊急事態宣言下における変化変容は様々ですが、少なくとも「働き方」に関する考え方、IT技術の浸透は数年分の進歩を一気に進めたことには異論はないでしょう。またソーシャルディスタンスの考え方や、物資の不足、ウィズコロナの生活がいつまで続くかわからないストレスは、既存の生活様式に大小の変化を与えました。
同時にホテル業界においても、休館したところもあれば、新しいプランを提供したり、未来の宿泊チケットなどの新しいサービスも生まれました。概ね業界の統一見解としては、最初に戻ってくるであろう国内旅行者、星野リゾートの星野佳晴社長曰く「マイクロツーリズム」への対応が、この一年を乗り切るための解と言われています。そこにはコロナ禍における閉塞感、既存の価値観(生活、旅行)の崩壊を経て、どのような新しい宿泊に対する価値観が醸成され、それに対してどのようなサービスを提供することがありえるのか、と各ホテル企業が現在頭をひねり続けています。
RE-ENTRYフェーズ 2020年~2022年ごろ
自粛と回復を繰り返し、緩やかなW字を描きつつ経済が回復の兆しを見せたとして、すぐに宿泊需要が戻るわけではありませんが、補正予算によるGo Toキャンペーン事業により巣ごもり生活における閉塞感から「外に出たい」との気持ちを後押しすることで、徐々にですが近場への旅行需要が増えてくるはずです。そうなったとき、国内のニュー・ノーマル旅行需要に対してソーシャルディスタンスを保ちながらの新しい旅行や宿泊スタイルを準備して待っていたホテルは様々なサービスを提供し、PDCAを繰り返しながらホテル施設、ホテルサービスとしてのニュー・ノーマルを築いていきます。
なお、この時点では渡航規制解除が限定的であるとすると、まだインバウンドは戻ってきません。しかし各国共に同様のマイクロツーリズム期を迎えると仮定すれば、将来帰ってくるインバウンドが各国内でどのようなライフスタイル、価値観を構築しているか、各国のホテルはどのような対応をし、どのようなPDCAを回しているかにアンテナを張っておくことが重要だと考えられます。
RE-ACTIVATEフェーズ 2023年以降
渡航規制の解除後について、UNWTOの上記報道資料では約半年程度で観光客が戻ってくる図になっています。また同レポートでは
「国内需要は国際需要を上回る速さで回復すると予測されている。その大多数は、2020 年の最終四半期までに回復の兆しが見えることを期待しているものの、観光需要の大部分が回復し始めるのは 2021 年になると予測している。過去の危機を踏まえると、ビジネス旅行よりも、特に、友人や親族への訪問といった休暇目的の旅行が、より早く回復すると予測している。」
と報告しており、おおむね国内の報道や識者の発言と同様の見解となっています。ホテル開発事業者界隈では、日本にはオリンピックや大阪万博といった国際的イベント、IR開発といった旧来からの観光誘致施策があり、観光・宿泊事業における持続的成長はこの先も見込める、という見方もあるようです。
ホテルの”ニュー・ノーマル”とは?
この数年のホテル事業の多くは、業界全体が好調であったため不動産投資的画一的な開発が多かったと思います。たとえそこがレッドオーシャンであると分かっていても、インバウンドの伸び率、エリア内の既存施設数の不足などが、開業ホテル数の増加に火をつけていました。
既存ホテルの方々はすでに様々な努力をされていますが、新規にホテル開発をしている場合、所有・経営・運営が一丸となって、アフターコロナの“ニュー・ノーマル”を想定し、提供できる施設、サービスのかたちを描くことが肝要です。
ニュー・ノーマルが定まらない中、不透明な顧客に対するサービスや施設が提供できないと考えるところは、新規の開発を一年以上ストップしているという話も耳にします。つくるか、止めるか、辞めるか、はやはり悩ましいところです。